なぜ変わるの?

改正の背景

化学物質に起因した労働災害の発生件数は近年高止まりしており、この中には重篤な災害も含まれています。また、小規模事業場では法令順守が不十分な傾向にあり、対策の遅れが指摘されていました。
一方で、欧米をはじめとする諸外国では、化学物質管理は事業者が自律的に管理することがスタンダードとなりつつあります。

改正背景のポイント

どうして日本では化学物質を原因とした労働災害が減らないんだろう??

理由はいくつかあるのだけど、日本で化学物質の危険性・有害性を伝えるシステムが不十分だったことが大きいよ。その化学物質の危険性・有害性がわからなければ安全に取り扱うことはできないよね。

どうして不十分だったの??

以前は危険有害性情報の伝達が義務となっている物質数が少なかったんだ。

義務化されていない物質の危険有害性情報は伝わりにくかったんだね。

だから、今後も危険性・有害性を示すことが明らかになった物質に対して段階的に情報伝達を義務化していくことにしたんだ。

危険性・有害性がわかったら安全に取扱うための対策をしないといけないね。
どんなことを気を付ければよいのかな??

それを決めるのがリスクアセスメントだよ! 危険性・有害性を示す化学物質の取扱い方法にあわせた対策を事業者自らが決めるのが自律的な管理なんだ!

これまでの化学物質規制の仕組み

これまでの労働安全衛生法の化学物質規制においては、有害性の高い物質に対して法令で具体的な措置義務が規定されてきました。また、ラベル表示やSDS交付についても義務がかかる対象物質はリスト化され、特にラベル表示については違反行為に対する罰則も規定されています。

ラベル表示、SDS交付及びリスクアセスメントの実施が義務である物質の数は限られている一方、職場で使用されていて、危険性・有害性を示す物質については、ラベル表示、SDS交付及びリスクアセスメントの実施が努力義務になっているよ!

化学物質

義務と努力義務はどう違うの??

労働安全衛生法では、重大な事故や慢性疾患の原因となった物質等をリストアップして災害防止対策の義務を課してきたよ。対策の種類によっては罰則が付くものもあるんだ。 一方でリストアップされていない危険性・有害性を示す化学物質に対する災害防止対策は努力義務として推奨されているよ。

今後も国がGHS分類を行った結果として、健康有害性又は物理化学的危険性において危険有害性区分が付与される物質は、ラベル表示、SDS交付及びリスクアセスメント実施の義務がかかる物質に追加される予定だよ。

化学物質

改正の理由

国内の労働災害発生状況

近年の労働災害データでは、化学物質による労働災害の高止まりがみられ、特別規則(特化則、有機則等)対象物質以外の化学物質による健康障害が8割を占めるようになり、また重篤な災害事例(石綿ばく露労働者の肺がん・悪性中皮腫、印刷工の胆管がん、染料製造労働者の膀胱がん等)も発生しています。 小規模事業においては労働災害の発生の割合が高いこと、リスクアセスメントの実施率が低いことなどがわかっています。

これらのことから、あらためて労働者への取扱い物質の危険性・有害性の周知及びリスクアセスメントに基づいた対策の重要性が浮き彫りになりました。

小規模事業対策の遅れ

一般的に企業規模が小さいほど、法令の遵守状況が不十分な傾向にあり、必要最低限の措置すら行われていない中小企業も多いのが現状です。特に中小企業においては、有害な業務やラベル、 SDSに対する労働者の理解が低いことが認識されています。

図表事業場の労働者数と災害発生の割合
労働者数(人) 事故の型
爆発・火災・破裂 有害物等との接触
1~9 29.8% 20.4%
10~29 41.0% 26.2%
30~49 10.1% 13.3%
50~99 6.7% 12.0%
100~499 9.6% 23.3%
500以上 2.8% 4.8%
100.0% 100.0%
出典:労働者死傷病報告

グローバル対応

化学物質は年々増加の一途をたどり、現在、 CAS登録番号®が付与されている化学物質の数はすでに2億種を超えています。

また、産業現場で使用する化学物質の用途も多様化していますが、全ての物質を法令に基づく工学的対策等で管理することは困難です。

国際的には、化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)により、危険有害性を示す全ての化学物質について、ラベル表示や安全データシート(SDS)交付を行うことが国際ルールとなっており、欧州ではREACH(Registration Evaluation Authorization and Restriction of Chemicals)規則により、一定量以上の化学物質の輸入・製造については、全ての化学物質が登録対象となり、製造量、用途、有害性などの情報を活用したリスクに基づく管理が行われています。

CAS登録番号

⽶国化学会の情報部⾨であるCAS(Chemical Abstracts Service)によって付与・管理されており、世界的に利用されている、個々の化学物質に固有の識別番号のこと。

職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会

行政検討会である、「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」において、「化学物質の自律的な管理」を念頭に置いた新しい化学物質の管理体制を導入することの必要性が示され、令和3年(2021年)7月に検討会報告書が公表されました。
この報告書は、化学物質管理に関する有識者、労働組合関係者、経営団体関係者等の専門家による2年間にわたる検討の結果がとりまとめられたものです。

報告書の概要はこちらでも紹介しています。

当該報告書を踏まえ、令和4年(2022年)2月以降、自律的な管理に関する関係政省令が改正され、関連する告示や関係通達が発出されています。

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    自律的な管理

    国が示した「危険性・有害性に関する情報伝達」、「労働者のばく露を濃度基準値以下とすること又は最小限度とすること」等の基本的な枠組みや達成すべき指標等の情報に基づいて、事業者がリスクアセスメントやばく露防止措置等の管理手法を自ら選択して実行することです。

    用語集:「自律的な管理

    事業場

    労働安全衛生法においては原則として、同一の場所にあるものは一つの事業場、場所的に分散しているものは別個の事業場と解釈されます。

    用語集:「事業場

    事業者

    事業を行う者で、労働者を使用するものを指します。

    化学物質管理者

    ラベルやSDSの確認と化学物質に係るリスクアセスメントの実施の管理、リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択・実施の管理、自律的な管理に係る各種記録の作成・保存、労働者への周知・教育等を担い、これらの職務を関係者や専門家と協力して進めることが期待されます。

    用語集:「化学物質管理者

    リスクアセスメント対象物

    ラベル表示、SDS交付、リスクアセスメント実施が義務である物質のことです。表示対象物質を裾切り値以上含む混合物、又は通知対象物質を裾切り値以上含む混合物のいずれかに該当するものも含みます。

    通知対象物(通知対象物質)

    SDS交付が義務である対象物質のことです。通知対象物を裾切り値以上含む混合物も対象となります。

    濃度基準値

    一部のリスクアセスメント対象物を製造する又は取り扱う業務を屋内作業場で行う場合に、当該業務に従事する労働者がこれらの物質にばく露される程度を「濃度基準値」以下としなければならないとされている濃度のことです。

    用語集:「濃度基準値

    措置義務

    労働者の作業行動に由来して労働災害につながる作業等に対して、労働者の危険又は健康障害を防止するための措置を講じることが義務付けられていることを指します。

    労働者

    職業の種類を問わず、事業者に使用され、賃金を支払われるものを指します。

    表示対象物(表示対象物質)

    ラベル表示(容器又は包装への表示)が義務である対象物質のことです。表示対象物質を裾切り値以上含む混合物も対象となります。

    「ラベル表示対象物」と表記されることもあります。

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